未来の歴史

物語・作曲 おおたけ こうじ

   「歴史は繰り返される。」

歴史学者はよくこう申します。

   「歴史は繰り返される。」


 地球が誕生して45億年、生命が誕生して35億年、人類が誕生して1万年。
最後の世界大戦が地球上で行われて、はて、何年が経ったのだろう。



 月に都市の建設が始まって早いものですでに100年。
ここ数年、地球からの移住者は急激に増え、月の治安は悪くなるばかり。
月の開発の中心的存在である月の生活に適した体に整形されたムーンムック民族と、労働者として地球から移住してきたアース民族の間では、小規模な衝突が度々起こるようになりました。



 人口問題を何も解決できない政府は、責任をとって総辞職をしました。
そして後任には選挙の結果ムーンムックの英雄ダイアモンドが大統領に就任したのです。

 彼が大統領に就任してひと月。彼の演説は最悪の歴史の幕開けでした。

「こんにち、月の人口は増加の一途をたどっている。現在では収容できる人口を1割も超えている。
もともと月の開発は我々ムーンムックが行ってきた事業であり、月は我がムーンムックのためにあるのだ。
現在の生活の悪化をもたらしたのは邪悪な他の民族の者どもである。
我々聖なるムーンムック民族は、今こそ立ち上がり、この月にかつてあった素敵な世界を取り戻さなければならない。
月に仕えし聖なるムーンムック民族の諸君!母なる月の大地を守るために立ち上がれ!
ムーンムック民族に栄光あれ!」



 街で行われるデモ行進や集会には容赦のない銃弾の雨が降り注ぎ、ダイアモンド大統領反対勢力の代表者は見せしめに次々と街なかで殺害されました。
ダイアモンド大統領はメディアを巧みに利用し、人々の心に民族浄化という悪魔を住まわせることに成功したのです。



 地球国際連はすぐさまダイアモンド説得工作に動き始めました。
同時に圧力をかけることもしました。今まで行ってきた援助物資の輸送を全て停止したのです。
しかし、すでにほとんどの物資において自活可能となりつつある月世界には、さほどの効果はありませんでした。



 都市のはずれに住むムーンムックの外科医師ドクター・ストーンは、腕利きの外科の先生で月の世界では有名でした。
彼の病院には毎日たくさんの負傷者が担ぎ込まれます。

 負傷したアースの人々も受け入れているドクター・ストーンには、日に日にムーンムックからの圧力が増しました。



 警察の所長が病院にやって来て言いました。
「先生、大統領閣下のご命令により、ここの病院はムーンムック民族のみが利用できることとなります。
どうぞご理解とご協力をお願いいたします。」
「私の仕事にムーンムックもアースもないんだ。怪我を負っている人を治すのが私の仕事なんだ。
あなた達は狂っている!!」
「今後、聖戦が始まれば負傷した戦士のお手当てもお願いしなければなりません。
先生の腕の確かさは我々も信用いたしております。」



 ダイアモンド説得工作に進展が見られず、地球国際連はついに武力による制圧を解決の方法にすることを決定しました。
そして「正義」という旗を掲げ、地球防衛軍が月に攻撃を始めたのです。



 ドクター・ストーンの病院には、毎日大勢の負傷した戦士が担ぎ込まれるようになりました。

 そんな中、右足を骨折して運ばれてきた一人の青年戦士がいました。
彼の骨折はさほど複雑でなく、また若さのお陰もあり、他の患者よりも早く完全に回復しました。
彼は退院する日、ドクター・ストーンの手を握り、お礼を言いました。

「先生、ありがとうございました。お陰様で足もしっかり動くようになりました。
これでまた戦場に復帰できます。」

「ああ、私のしていることはいったい何なのだろう。
彼の足は治らなかったほうが良かったんじゃないか!!
こんなバカな話があるか!!」



 銀河同盟機構が仲裁のためにやってきたのは、それから約半年後のことでした。
長い紛争で深く掘られたお互いの溝を埋めるべく、様々な政治工作が行われました。



 その最中にも戦争は激化していきました。
地球国際連の標的は、月のエネルギータンクや発電設備、また戦争に関係すると考えられる全ての建物に向けられました。
そして、その中には負傷している戦士を治療している病院も入るのです。



 ドクター・ストーンの信念は、戦闘員であろうと一般市民であろうと、または、ムーンムックであろうとアースであろうと、怪我をして苦しんでいる人がいれば完全に治るまで尽くす、というものです。
そんな彼の病院にも地球国際連の攻撃計画は向けられました。



 その彼の病院に、一人のアースの少年が意識のない状態で運ばれてきました。
連れてきたムーンムックの男がドクター・ストーンに説明しました。

「こいつの親は1年前にデモに参加して2人とも殺されてしまったんです。
今まで私の住んでいる地区の片隅で弟と細々と生活していたんですが、今朝ムーンムックの大人たちが大勢でこいつ一人をリンチしたんですよ。
私は勇気が無くて止めに入れなかったんですが、ぐったりしているこいつをほっとけなくて連れてきたんです。
先生、なんとかなりますかねぇ。」

 ドクター・ストーンは自分の子供と同じくらいのこの少年を見て、今回の戦いの無情さが体を突き抜ける感覚を覚えるのでした。
彼は自分の部屋の片隅にベッドを置くと、手術を施した少年をそこで診ることにしました。
体中に骨折があり重体の少年は、意識のない状態で4日目を迎えました。



 銀河同盟機構は一時停戦をさせるために、地球と月の間に銀河平和維持軍を配置しました。
半年ぶりに訪れた恐怖のない日々に人々は一様に喜びましたが、一度歩き始めた悪魔はそうは簡単に止まりません。
アースに対する迫害は増す一方でした。



 奇跡的に意識を回復した少年は、しかし、ドクター・ストーンに心を開こうとはしません。
ムーンムックにリンチを受けた恐怖心が、少年の心の中に新たな悪魔を誕生させたかのようでした。
ドクター・ストーンが彼の体を触ろうとしたその時、少年は叫びました。

 「止めてくれ!あんたはどうせおれなんか死んじまえばいいと思ってるんだ。
おれはおまえ達なんかに殺されないぞ!生き続けてやる!いつか復讐してやる!」

 少年は、それだけ叫ぶと再び深い眠りに入りました。
ドクター・ストーンの眼から大粒の涙が次から次へと溢れていきました。



 銀河同盟機構が行った政治工作は、それぞれの利益中心の主張の前にことごとく失敗に終わりました。
「このままでは他の星々に飛び火しかねない。平和を維持できない危険な星は抹殺すべし。」
銀河同盟機構本部が出した結論は無慈悲な冷血無情なものでしたが、しかしこれまでも平和というものは力で維持してきたものなのです。
銀河平和維持軍は月に素粒子爆弾を仕掛け、本部へと帰っていきました。



 銀河平和維持軍がいなくなった地球と月の間では、自分たちが抹殺されるとは露とも知らず、再び激しい戦いが始まりました。

 激しい戦火の中、病院に入院していた少年は、親身になって世話をするドクター・ストーンをじっと見ていました。
少年には、まだムーンムックに対する恐怖心がありましたが、ドクター・ストーンに対しては何か違う温かさを感じていました。

 突然、二人の耳をつんざくような甲高い音がしたかと思うと、激しい爆音が二人を包み込み、少年とドクター・ストーンはガレキの中へ埋もれていきました。

 次の瞬間、すべてをあざ笑うかのような大きな火柱をたて爆発した素粒子爆弾は、月を吹き飛ばし、飛び散った月の破片は地球を破壊したのです。



 人類最後の歴史は繰り返されました。

--終--
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